Testarossaのようなアイコン的存在を進化させることは容易なことではありませんが、決して不可能なことではありません。実際、フェラーリは、1992年に512 TRを登場させ、それが可能であることを示しています。このニューモデルには、1984年に世界を驚かせたコンセプトの枠組みが踏襲されていましたが、エクステリアに数多くの変更を加えたことから、ピニンファリーナならではのエレガントなフォルムが生み出していたエアロダイナミクス性能に磨きがかかりました。そしてインテリアも進化し、快適性とエルゴノミクス性能がいちだんと向上しました。
モデル名は以前のように英数字を組み合わせたもので、”5″ が排気量の5リッター、”12″ が12気筒、”TR” はTesta Rossaを表しています。この512 TRがデビューを果たしたのは、跳ね馬ワールドのあらゆるニュースに関心が集まるロサンゼルスモーターショーです。 512 TRはラジエーターグリルが再設計されましたが、このグリルはインスピレーションを刺激する先代モデルとの主な相違点となっただけでなく、348で導入した新しいデザイントレンドとの相性も抜群でした。グリルの両側に組み込まれたライトクラスターは、エアロダイナミクス特性よりもデザインの美しさを際立たせることに貢献するもので、伝統的なリトラクタブルヘッドライトは以前のままです。 512 TRでは、エンジンフード中央の隆起した部分とその両サイドのエアベントがサテンブラックで塗装され、後方のエアベントがボディカラー同色塗装となっています。
リヤストラットのプロファイルもわずかに異なっており、Testarossaのステップとエアベント用穿孔グリルの代わりに、512 TRは直線状に直接ルーフパネルに接続していました。新しいアルミホイールは、フェラーリ伝統の星形5本スポークデザインをベースにしたスタイリッシュな仕上がりで、ホイールの奥にはドリル加工の施された大型のベンチレーテッドディスクと4ピストン式のキャリパーが装着されていました。また、独立懸架式サスペンションとステアリングホイールシステムに関しては、Testarossaのものをベースにしつつ、大径ホイールへの適合と走行精度の向上を目的に微調整がなされました。
4バルブのシリンダーとドライサンプ潤滑システムを備える12気筒の水平対向エンジンは、Bosch Motronicインジェクションシステムを採用したTestarossaのパワーユニットに改良を加えたものです。排気量が同じ4,943 ccであるにもかかわらず、数多くの変更を施したことで38 cvのパワーアップが実現し、最高出力は欧州仕様が428 cv、米国仕様が421 cvとなりました(発生回転数はどちらも同じ)。最高速度は先代モデルとそれほど変わらなかったものの、加速タイムでは先代モデルを凌駕しています。さらに、エンジンの搭載位置を30 mm低くしたことで、重心が下がったため、ロードホールディング性能とハンドリング性能が改善され、動力性能とドライビングダイナミクスに磨きがかかりました。