スターの実力

写真：グレッグ・ウィリアムズ

数々の映画やテレビ番組に出演し、エミー賞やゴールデングローブ賞にノミネートされたニコラス・ホルトをご存知の方は多いことでしょう。ホルトは、2002年の「アバウト・ア・ボーイ」をはじめ、「X-MEN」シリーズやオスカー賞を受賞した「女王陛下のお気に入り」に出演。また、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」では、入れ墨を入れた凶暴な戦闘集団の一員のニュークス役として、終末の時代の荒れ地を汚れたバイクで疾走しています。

上：ホルトと彼の Ferrari 296 Challenge レーシングカー

普段のホルトと、彼が映画の中で演じたニュークスが似ているということはありません。しかし、共通点が1つあります。それは、非常にレースが好きであるということです。ホルトはこの数年間を、チーム・フェラーリでレーシングストライプを獲得するために費やしてきました。この間に、フェラーリのコルソ・ピロタ・ドライビング・スクールに入り、卒業を果たしています。そして、ホルトのレーシングの学びの頂点は、この7月に訪れました。ニューヨークのワトキンズ・グレンで行われたフェラーリ・チャレンジ・レースに参加して優勝したのです。ワトキンズ・グレンの街のロードレースの歴史は、史上初のワトキンズ・グレンGPが行われた1948年に遡ります。

「ワトキンズに行ったのは初めてでした」ホルトはこう言います。「あの場所には、レースに関する深い歴史があります。もちろん、サーキットにも行きましたよ。とても楽しかったです。良い週末でした。」

ホルトは良い週末を過ごしただけではなかったのですが、控えめに言ったのかもしれません。事実、彼はサーキットで1分49秒2という驚異的なラップタイムを叩き出し、1位の表彰台に立っていたのです。

上、左から：ホルトが 296 Challenge レーシングカーに乗り、ハンドルを握る様子、そしてトラック前の緊張に向き合う。1971年型の伝説的なナンバー12 Ferrari 512 M 耐久レースカーのコックピット内

ホルトはフェラーリを運転し始めて数年になります。当初はコルソ・ピロタ・プログラムからスタートし、現在はロードカーの 296 GTB をベースにしたレースカーでフェラーリ・チャレンジ・シリーズに参加しています。この車は、V6ツインターボエンジンからハイブリッドパワートレインを取り除いたもので、700cvという強力なパワーを発揮します。サーキットで走ることを真剣に考えている人にとっては、本格的なマシンです。

ホルトもまさに、そのように考えている一人。ホルトは、自身がペースをつかみ、スキルを徐々に高めていくうえでフェラーリのインストラクターがいかに助けになったかをかいつまんで説明し、自身の速度がどんどん速くなっていることを教えてくれました。「今、チャレンジカーに乗っていますが、自分のスキルが順調に向上しているように感じます。また、サーキットで最高の成績を残すためには、車にどのようなインプットが必要かを理解しているという自信もあります。」

「マッドマックス 怒りのデス・ロード」で、ホルトは壮観な砂漠でのカーチェイスに深く関わりました。そこで、レーシングカーと車を使った撮影を比較してどう感じるかを尋ねたところ、微笑みながら次のように答えてくれました。「大きな違いは、『マッドマックス』では多くの場合スタントドライバーがいて、カメラから隠れて私のために動いてくれました。だから、運転するふりをしながら会話に集中できたのです。一方、フェラーリに乗って運転するときは、コントロールしているのは自分であり、隠れる所はありません。うまくコントロールできなかったら、それは私のせいなのです。」

上：1970年代にポール・ニューマンがボンネビル・ソルトフラッツのテストで走った1971年型 512M とホルト

このようなストレスが溜まる、不快なコックピット環境でリラックスし続けるのは簡単なことではありません。ホルトはそのとおりだとうなずきます。「私もこれに苦労しています。そのような状況に置かれると緊張が高まります。これは体の自然な反応です。ただ、最悪なことに、これが原因で応答する時間や操作が遅くなってしまうのです。しかし、私がレースで本当に気に入っているのは、順調に進んでいると、インプットとアウトプットがある一種の瞑想的状態になるところですね。自分がコックピットにいるがゆえに、本当にそのような状態になる必要があるのでしょう。ワトキンズでの最高速度は時速170マイルだったと思います。時々、『ここから出るべきなのか？』、『これをすべきなのだろうか？』と考えてしまうことがあります。雑念は持ちたくありませんし、そうした雑念は明らかに理想的なものではありません。」

幸いなことに、7月の週末のレース当日は、雑念がまったくなかったようです。その日に得た初の勝利は素晴らしかったことでしょう。「もちろんですよ」と、ホルトは微笑んで語ります。「初めて表彰台に上がってシャンパンファイトをしたのですが、なかなかうまくいきませんでした。写真を見ると、親指がボトルネックにきちんと掛かってなかったみたいで、シャンパンが吹き出ていないのです。シャンパンでの祝いの場で恥ずかしかったですね。でも、もう少し表彰台に上がることができれば、シャンパンファイトが上達するかもしれませんね。」