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情熱

マラネッロのハートメーカー

エンツォ・フェラーリが自社工場を設立したとき、工場内には最初から自前の鋳造所が設けられました。もちろん、それ以来自動車技術は徐々に変化を遂げています。しかし、液体の金属からエンジンが製造されていく光景を眺めると、いつの時代にも変わらぬ感情が生まれるものです
文:ケビン・M・バックレイ / 動画:オリバー・マッキンタイヤー
ごく初期の頃、フェラーリにはエンジン部品を製造するための独自の鋳造所が設けられました。これは、多くの自動車メーカーと同様です。しかし、おそらくはマラネッロの工場だけでしょう。当初の鋳造所がいまだに健在なのです。現在、敷地内の鋳造所には100名以上の熟練の技術者が勤務しており、シリンダーヘッドからエンジンブロック、エンジンベッドプレートまで、さまざまな部品を細心の注意を払いながら製造しています。

エンジンの旅が始まるフェラーリのマラネッロ鋳造所を覗いてみましょう…

最近では、技術者の手が汚れるということがあまりありません。 これは、プロセスの最初の状況にも当てはまることであり、ほとんどの技術者は白い軍手を着用しています。全体の製造工程は、正確に寸法が調整されたエンジン部品を製造に使用される一連の金型に基づいて考えられています。「基本は『昔から』とほとんど変わっていません」と語るエンジンコンポーネント部門の責任者、フェデリコ・サンティーニは、複雑なプロセス全体を、ケーキの形状とは逆の形をした型に材料を流し込むケーキメーカーになぞらえて話します。鋳造所には、さまざまな分野の専門知識が必要です。「化学、冶金、そして設計なども、必要な知識の一部です」サンティーニはこう説明します。この多様な専門知識は、何十年にもわたって受け継がれ、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)によって補われてきました。「一部の処理については、取得した特許という側面もあります。これは、秘密にしておきたい部分ですね」

上:フェラーリの鋳造職人が、V12の上部と下部の冷却回路の「コア」を手作業で接着する前に配置しているところ

最初の段階では、結合剤が未確認のまま残っている砂と樹脂の混合物が充填された「コアボックス」が見られます。混合物を固めるために、ボックス内には圧縮空気が送られます。「これが、いわゆる成形中の『コアボックス』です」とサンティーニは語ります。「オーブン内で処理されるケーキの焼き型のようなものですね。」これはその後、二酸化硫黄ガス内で酸素を遮断して硬化されます。残留したガスは、圧縮空気を「コア」に吹き込むことで「洗い流され」ます。次に、圧縮されてできた砂型が取り出されます。鋳造所の難解な用語では、この繊細な型のことを「アニマ(魂)」という、心揺さぶるような言葉で呼んでいます。


「これは、私たちが作り出そうとしているエンジン部品とは逆の形を持つものです」とサンティーニは言います。その微細な構造は、直径1 mm以下の鉄のワイヤーを通して強化されることになります。また、この細かい作業は手袋を装着した非常に安定した手によって、手作業で行われます。次に、「アニマ」(つまり「コア」)から余分な材料を手で取り除いてキャビティなどを形成します。多くの場合、希望するエンジン部品の形になるように、「コア」を組み合わせて接着します。

上:技術者が、アルミ鋳造の前に、接着された冷却回路の「コア」にジルコンを塗っています

「1つの部品に12個の「コア」が必要になることがあります」とサンティーニは説明します。「たとえば、V12のシリンダーヘッドがこれに該当します。」アニマは、先にジルコンで処理されるため、仮置きされている鉄のワイヤーが溶融アルミニウムと融合することはありません。「次に、『コア』がダイカストの金型内に入れられ、この金型に溶融アルミニウムが充填されます。各キャビティにアルミニウムが流れ込みますが、この処理には最大で10分を要します」とサンティーニは説明を続けます。重力鋳造のアルミニウム充填プロセスは、流入角と流れの速さの両方を考慮して正確に計算されています。これにより、金属静水圧加圧(液体となった溶融金属によって引き起こされる現象)が発生し、気泡が追い出されます。この気泡は、あらゆるエンジン部品にとっての構造上の潜在的危険となります。

上:約12個の砂でできた「アニマ」を組み立てて作り上げられたエンジン内部の反転形状。V6エンジンブロックを作るために必要な戦略的な「空洞」をすべて示されています

このときに残った鋳物が、実際のエンジン部品となります。熱間成形された部品からは砂が取り除かれ、鉄のワイヤーも除去されます。これも手作業で行われます。フェラーリのさまざまなエンジン部品にも、これと同じ複雑な手法が用いられており、一連の金型で最大150個の部品が製造されています。


「V12のシリンダーヘッドはすべて、ここマラネッロの鋳造所で製造されています」とサンティーニは誇らしげに語ります。このような精密な技術は、極限の作業とも言えるものです。「技術を極めようとすると、人間の感覚がより必要になってくるものですね。」サンティーニはこのように結論づけています。

カバー画像: 鋳造作業員が、812 Superfast、Purosangue、Monza SP1/SP2 用の V12 シリンダーヘッドを作成する過程で、巧みに「コア」を「削ぎ落とす」作業を行っています