これまで、一貫してフェラーリの原動力となってきたのは、新たな限界を探求し続ける勇気です。新しいFerrari SF90 XX StradaleとSF90 XX Spiderは、まぎれもなく新しい極限を指し示しています。これはまったく斬新なコンセプトで、史上初めて公道走行が可能となったXXカーです。
フラヴィオ・マンゾーニ率いるフェラーリ・スタイリングセンターが完成させた、この最新のスペシャルシリーズモデルの設計の挑戦も、「極限」という言葉で説明されます。実質的なサーキットカーを設計し、それを公道に持ち込むというのは、けっして簡単な作業ではありませんでした。しかし、フェラーリには豊富な水源があると、マンゾーニは指摘します。「Ferrari SF90 XXは、他のサーキットプロジェクトでの経験に多くを負っています。たとえば、Ferrari FXX K、488 GT3、296 Challengeなどです。こうした車で直面した課題の多くは、SF90 XXでも直面することになりましたが、それは桁違いの規模のものでした。」
このFerrari SF90 XXの場合ほど、フェラーリ内の多くのチーム間で緊密に協力したことは、めったにありませんでした。車両リヤエンジン・エクステリアデザイン部門の責任者、カルロ・パラッツァーニも次のように述べています。「現代のデザイナーは、もう車の美しさに気を配るだけではなくなっています。今や私たちは、技術的な全部門との連携に深く組み込まれています。しかし、私たちの使命は変わりません。それは、パフォーマンスを最大限に引き出しながら、あこがれの対象となりうるものを生み出すことです。」
こうした相乗効果を生み出す作業が最も密接となったのは、デザイン部門とエアロダイナミクス部門の間でした。要求は、大変なものでした。それは、Ferrari SF90 XX Stradaleに公道仕様車としてはフェラーリ史上最高のエアロダイナミクス性能を与えながら、通常のSF90のダウンフォースを2倍にすることでした。
マンゾーニは次のように振り返ります。「プロジェクト着手時、私たちはエンジニアのようになり、エアロダイナミクス要件を創造的・芸術的な形に変換することに取り組む必要がありました。私たちは、まったく異なるスタイリングコンセプトを採用することにしました。この車は非常に極限的で、とても荒々しい、圧倒的な、サーキット生まれの車だからです。」
カルロ・パラッツァーニも、補足して次のように言います。「これは、まったく新しいことです。もちろん、Ferrari SF90であることは認識可能ですが、SF90 のデザインの本質をなす力を余すところなく発揮できるような、新しい次元に達しています。」
Ferrari SF90 XXは、ベースとなったモデルよりも全長が140mm長く、テールを延長したことで空気抵抗が低減し、ダウンフォースも増大しています。完全に形状を一新したリヤエンドは、水平レイヤー効果が特徴的で、リヤでの圧倒的な幅を強調しています。レイヤーの1つとなっているのが、ドラマチックな固定式リヤウイングです。車両リヤエンジン・エクステリアデザイン部門のトップバーチャルモデラー、フランチェスコ・アベシオは、次のように説明します。「上から見ると、ウイングのセンターとサイドの要素は異なる形状をしています。ピラーは軽量でありながら、極度のダウンフォースにも耐えられるように慎重に設計されています。これは大きな挑戦でした。」
もう1つの明確なデザインレイヤーとなっているのは、新しいリヤライトバーです。それに対し、フロントライトは、ぐっと狭くなった形が特徴で、抜本的に形状を一新したノーズでFerrari SF90のハンマーヘッドのモチーフを際立たせるのに一役買っています。フェンダーもエアロダイナミクス的に改良され、特徴的なトリプルルーバーが揚力の低減に役立っています。
さらにデザイン チームは、リヤエンジンリッドやボンネット中央のツインSダクトなどの特定の要素を、意識的にコントラストの効いたカラーで強調することにしました。これにより、一種の立体的なカラーリングが生まれています。
Ferrari SF90 XX Spiderでは、エクステリアからインテリアにカラーが「飛び込む」ように見えるので、このドラマチックな感覚はいっそう強烈です。デザインの変革はインテリアでも追求されていると、車両リヤエンジン・インテリアデザイン部門のトップバーチャルモデラー、フィリッポ・デッリ・エスポスティは説明します。「私たちの考え方は、本質的なもの以外はすべて取り払うことで、車のレーシングスピリットとコックピットでのパイロットの重要性を強調することでした。」 こうして、コントラストカラーの新しい凹面セクションを備えたカーボンファイバー製ドアパネル、ギアシフトゲートの配置を変更した「フローティング」センタートンネル、新しいカーボンファイバー製「レーシング」シートなどが採用されました。こうした形状は、レーシングカーのモノコックの形状からインスピレーションを得たものです。
結局、設計プロセスはどれほど困難だったのでしょうか。パラッツァーニは次のように説明します。「『XXのアイデア』を公道に持ち込むというのは、簡単ではありませんでした。これは極限的な車です。この車は、フェラーリがたえず進化しており、さまざまなデザイン分野に進出していることを物語っています。Ferrari SF90 XXは、私たちの遺伝子を拡張し、知識を拡充し、存在感を強めてくれます。」 何事もそうであるように、勇気はご褒美をもたらしてくれるのです。