ダビデ・マルキ
生まれたときからスクーデリアのファンだったダヴィッド・トニッツァは、レーシング・ドライバーになる夢を追いかけることはできませんでしたが、仮想世界での才能に秀でていたために、ずっと心に抱いていた希望を叶えることができました。フェラーリのF1チームの一員になるという希望を。
遠回りに思われる道を通りながらも、結局は最初に望んでいた場所にたどり着く。そんなことは往々にしてあるものです。これはF1に恋い焦がれていた若い男、いわば少年の心を持った成年の話です。フェラーリ・ドライバー・アカデミー(FDA)eスポーツ・チームに所属し、2019年のF1 eスポーツ・シリーズで世界チャンピオンに輝いたダヴィッド・トニッツァは、「ミハエル・シューマッハが僕のアイドルでした」と話します。。この若者は、2度の世界チャンピオンに輝いたブレンドン・リーとともに、2021年もこの特別なバーチャルFDAチームの代表を再び務める予定です。
ダヴィッド・トニッツァはこう説明します。「僕は2002年生まれですが、4歳のときに2000年の日本グランプリを観ました。凄いレースで、 シューマッハとチームは完璧なレース運びを見せました。2周のエクストラ・ラップで違いを見せつけたシューマッハは、予選のペースで走り抜けた結果、ピット・ストップを終えると先頭に躍り出たのです。」
トニッツァは、自身初参戦となる(しかも彼が優勝した)選手権レースの最中、F1コメンテーターが彼の姓を間違えて発音していたことから「トンツィッラ」というニックネームで呼ばれていますが、トニッツァはさらに続けてこう話しています。「シューマッハとフェラーリとの組み合わせは、F1史上最高の組み合わせだと思います。僕がモータースポーツに入れ込み、レースに連れていってほしいと両親にせがんだのは、シューマッハを見たいからでした。」
というのも、フェラーリの最先端型シミュレーターに関与する担当者たちは、彼にバーチャルF1マシンのステアリングを握ってもらいたいと思ったのです。マラネッロにあるスクーデリアの伝説の本社、ジェスティオーネ・スポルティーヴァの秘密の核心部において、トニッツァはビデオ・ゲームから最もリアルで精密なソフトウェア、すなわち「スパイダー」シミュレーターに移りました。
これまでとの違いはすぐに感じられました。「大きな違いは、動きです」と、トニッツァは説明します。「これまで僕は、感覚がステアリング・ホイールに伝えられるだけの静的なシミュレーターに慣れていました。コックピット全体が動くのですから、すべてが異なります。」
しかし、当惑していたのは少しの間だけです。「最初は奇妙な感じを受けましたが、非常に有益なことがわかりました。マシンの挙動が格段に明瞭に伝わってくるので、もっと迅速に反応できるようになるのです。このシミュレーターでのドライビングは、本当に信じられないほどでした。すっかり没頭してしまい、ものすごい感覚が得られます。それに、名誉なことでした。」
トニッツァが受けたテストは、彼の反応を評価するのが目的でした。トニッツァはこう言います。「マシンを調整して、その変化を僕が当てるというものでした。最初は特定が容易な変更でしたが、次第に違いの分かりにくい複雑な変更に移っていきました。エンジニアの方々によい印象を与えられていればいいなと思っています。また機会があるとよいのですが。」
その後、トニッツァは自分の世界に戻り、すぐにオーストリアのバーチャルGPでポールポジションを獲得し、2021年F1 eスポーツ・シリーズ開幕戦では1周目から最後までレースを支配しました。
この生来のスクーデリア・ファンにとって、F1チームとのかけがえのない体験は、すでにスターとなっている彼がこの世界でさらに強さに磨きをかけるのに役立ったのかもしれません。