すべてのニュース
25 1月 2022Magazine, Cars

見事な造形美を誇るレーシング・マシン

車輌

見事な造形美を誇るレーシング・マシン

Ferrari Daytona SP3、魅力に満ちた新たなIcona(イコーナ)が誕生しました。1960年代と70年代のフェラーリ・レーシング・モデルにインスパイアされた最先端のデザイン、優れたエアロダイナミクス性能、そしてレーシング・マシン特有のコックピットを特徴とする、 夢の12気筒モデルです

文:Chris Rees

写真:Alex Howe

きわめて低く構えたボディ。それはしなやかな曲線を描きながらも力感に満ちています。

タルガ・ルーフを開ければ走りへの準備は万全です。今般、新たなスターが誕生しました。Ferrari Daytona SP3がそれです。最先端のパッケージに仕立て上げられながらも、クラシックなレーシング・マシンのオーラを放っているこの車は、「アイコニック」という言葉の意味を明確に示しています。

そしてフェラーリの熱狂的ファンであればよく知っていることですが、


マラネッロにはアイコニックなモデルが有り余るほど存在しています。そのためフェラーリは、2018年に新しい「イコーナ」プログラムを立ち上げ、独自の卓越したアイコンから直接着想を得た車を開発することにしたのです。


このプログラムで最初に誕生したのは、1950年代のバルケッタをモチーフとした、Monza SP1とSP2という2台の魅力的なモデルです。これに対し、新型Ferrari Daytona SP3は、フェラーリの歴史を彩った他の黄金期から独自のスピリットを継承しています。そのスピリットとは、1960年代から70年代にかけてのプロトタイプ・マシンに宿っていたものにほかなりません。




Ferrari Daytona SP3の並外れたリヤビュー。「イコーナ」プログラムで開発されたこの新型モデルは、生産台数が599台に限定されています




フェラーリのデザイン部門を指揮するフラビオ・マンツォーニは、次のように説明しています。「Daytona SP3は、スポーツ・プロトタイプのコンセプトを現代的に解釈することで誕生したモデルです。フェラーリの歴代スポーツ・プロトタイプの中には、350 Can Am、512 S、330 P3/P4といった美しいモデルが数多く存在します。Daytona SP3を設計するにあたって、特定の1台から着想を得たということはありません。私たちは、これらのレーシング・マシンに宿っているスピリットを取り入れながら、力感に満ちていて主張のはっきりした、彫刻物のような1台を生み出したかったのです。」


フェラーリは従来モデルの場合と同様、Daytona SP3をデザインするにあたり、造形にこだわっただけでなく、 走りのパフォーマンスにも十分配慮することを心掛けました。この点について、フラビオ・マンツォーニは次のように述べています。「Daytona SP3はパフォーマンスと美しさを完璧に調和させたモデルです。一つひとつのエレメントは、どれも必要性が検討されているうえに機能性が追求されています。私たちは、個々のエレメントのデザインを見直すことに挑んだのです。」


フォルムと機能を狙い通りに融合させるため、Daytona SP3には、フェラーリを象徴するコンポーネントが用いられました。それは、LaFerrariを起源とするカーボン・ファイバー製のシャシーです。このシャシーを採用したことにより、車両重量、パッケージング、ダイナミクスなど、あらゆる面にメリットがもたらされています。また、レーシング・マシン専用の技術と素材も積極的に取り入れてあります。特に注目すべきは、航空宇宙工学の分野に由来するT800カーボン・ファイバーをコックピット・タブに用いている点や、F1の分野で使用しているものと同じ、オートクレーブ成形法を採用している点です。




フェラーリ・スタイル・センターが手掛けたこのフォルムは、流麗さと大胆な鋭さを融合させた仕上がりです。シートはレーシング・マシンと同様のクッションを用いたもので、カーボン・ファイバー製のシャシーに直接固定されています。ボンネットのツイン・エアインテークとフロントグリル両サイドのブレードからは、エアロダイナミクスに磨きを掛けていることが分かります




カーボン・シャシーは、車両をデザインするうえで驚くほど多大な可能性をもたらす点も特徴です。この点についてマンツォーニは次のように話しています。「LaFerrariのシャシーを用いることで、キャビンの周りを中心に、理想的なプロポーションを実現させることが可能になります。例えば、ラジエーターをユニークな位置に設置したことで、ドア後部のウエストラインの位置には「絞り込んだ形状」にするための造形処理を施すことができたのです。」


デザインと機能の両面から見たとき、シザースドアも重要なエレメントの一つです。その彫刻的なフォルムは、フェラーリのレーシング・モデルである512 Sの影響を受けています。ドアには冷却用の空気をラジエーターに送るためのエア・ボックスを装備。さらに、カーボン・ファイバー製のシルは、その内部に別の流路が設けてあるような印象を与えます。


灯火類にも特筆すべき点があります。ヘッドランプはその一部が可動式の「アイリッド」で隠れていて、クラシックなポップアップ式ランプを連想させます。一方、テールランプは、車幅いっぱいに延びた印象的なバー型デザインに仕上げられていて、その上に張り出しているリヤ・スポイラーと美しく調和しています。また、テールランプの下には、アイコニックなデザインを際立たせるべく、複数のストレーキが配されています。このストレーキの役割は、エンジンの熱を放散させることと、リヤをシンプルにまとめ上げて「ボリューム感」を演出することです。最近リリースされたSF90 Stradale や296 GTBと同様、エキゾースト・パイプはリヤの中央に配置。これにより、エンジンからの距離をできるだけ短くして重量の最適化を図っています。




ヘッドラップに注目してみると、そこには「アイリッド(まぶた)」が備わっていて、ランプをフル・ビームの状態にするとこのアイリッドが開きます。カーボン・ファイバー製の「フリック」は、レーシング・マシンの330 P3/P4をヒントにしたものです




Daytona SP3の走りは、言葉で完璧に表現することがほぼ不可能です。しかし、そのスペックを見れば、ある程度イメージすることはできるでしょう。812 CompetizioneのV12自然吸気エンジンをベースとしているものの、吸気系と排気系に対しては唯一無二のレイアウトが採用してあります。また、フルード・ダイナミクスに磨きが掛けられている点もDaytona SP3の特徴であると言えます。この車に搭載されたF140HCエンジンは、フェラーリがこれまでに開発したものの中で最もパワフルなエンジンであり、その最高出力は840 cvにおよびます。レブ・リミットは驚異の9,500 rpm。レブ・リミットに向かって吹け上がる過程で、エンジンはユニークなサウンドを奏でます。その印象は見事としか言いようがありません。


専用のシフト・プログラムを用いたデュアル・クラッチ・トランスミッションを組み合わせていることから、パワー・ウエイト・レシオのみならず、加速性能の面でも記録的な値が実現しています。例えば、0-200 km/h加速のタイムは7.4秒で、0-100 km/h加速のタイムはわずか2.85秒です。この新型Daytona SP3のアイコニックな点、 それは独自のコンセプトが見事に具現化されている部分だと言えます。




共有
すべてのニュース

関連ニュース

21 11月Magazine, Passion

フェラーリのターボの歴史的節目

19 11月Magazine, Cars

新種のスパイダー

14 11月Magazine, Races

ビッグ・ジョン