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30 5月 2023Magazine, Cars

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フェラーリは長年にわたり、パフォーマンスを向上させるためのテクノロジーを取り入れてきました。その中で重要な役割を果たしているのが、F1ドライビングシミュレーターです

文:ジェーソン・バーロウ - 動画:Oliver McIntyre

フェラーリの所有するテクノロジー機器の中で重要な位置を占めるのが、シミュレーターです。F1チームは、過去およそ20年間にわたってシミュレーターを使用してきました。2009年にFIAがシーズン中のテストを禁止したことで、開発支援ツールとしてのシミュレーターの重要性は急速に高まりました。


現在ではコストの上限が綿密に管理されるようになったこともあって、新しいF1マシンの開発はこれまで以上にバーチャル分野で進められるようになっています。最近、スクーデリア・フェラーリは新開発のシミュレーターの使用を開始しました。このシミュレーターは現実世界との相関性と検証能力が非常に優れており、使用しているドライバーは、その精度を約98%であると評価しています。




マルク・ジェネがマラネッロのシミュレーターをご紹介するエクスクルーシブ・ビデオをご覧ください




しかし、だからといって以前のシステムが不要になったわけではありません。「実際には、今でも非常に活躍しています」と、F1クリエンティ、XXプログラムおよびコルソ・ピロタ・ワークショップの責任者を務めるフィリッポ・ペトルッチは説明します。「このシミュレーターは、2022年まですべてのドライバーが使用していました。スクーデリアは現在、最新世代のシミュレーターへの移行を進めており、こちらのシミュレーターはフェラーリのカスタマーレーシングチームやLMHプログラムで使用される予定です。私たちはまた、フェラーリのコルセ・クリエンティのお客様、なかでも古いV8、V10、V12マシンを所有していて使い慣れているお客様に、新しいV6ハイブリッド・ターボ・マシンを運転する機会を提供できたら、とも考えました」


レーシング・チームにとってのメリットは数多く報告されています。

「最小限の費用で、車両に大きな変更を加えることができます」とペトルッチは続けます。「ホイールベースの長さなど、車両のコンフィグレーションを変えられるのですが、 これを現実世界で行うのはほぼ不可能です。シミュレーターは、特にチームが新しいサーキットでのレースの準備をする際のセットアップに使用されます。フェラーリのテスト・ドライバーは、世界中のどこにいても、セットアップの変更についてレーシング・チームとリアルタイムで連携できるのです」




シミュレーターでは、モンツァ、バルセロナ、シルバーストーン、イモラ、ニュルブルクリンク、ザントフォールト、スパ・フランコルシャン、ムジェッロなど、世界で最も有名なサーキットのいくつかを選択できます




シミュレーターは絶えず稼働しており、 ペトルッチは、お客様が利用できるのは1年に15日間のみであると推定します。午前中に行われるトレーニング・セッションでは、昔ながらのF1マシンと最新のハイブリッド仕様との違いについて説明されます。その内容には、エネルギー回生やDRS、最新世代のステアリング・ホイールの複雑な仕組みを解明することが含まれます。


「お客様はご希望に合わせて体験プログラムをカスタマイズできますが、私たちは1日に2つのサーキットの体験を推奨しています」とペトルッチは言います。「午前のセッションではバルセロナをお勧めします。代表的なサーキットであり、速くてダウンフォースの高いコーナーがいくつかあるからです。午後はお客様のお好きなサーキットをお選びいただけます」。コーチはドライバーをリアルタイムで監視し、通信リンクを介して指導を行います。また、制御室には2人のエンジニアがいて、F1チームが利用できるすべてのテレメトリーを監視しています。




スクーデリア・フェラーリのアンバサダーであるマルク・ジェネは、ドライブのダイナミックかつ詳細な分析を提供できる専門エンジニアと緊密に連携してきました




「得られるフィードバックは、サーキットを走っているときに車内で感じられるものとほぼ同じです。アスファルトの正確な組成やタイヤの劣化などあらゆるものを再現でき、 また、すべての変数を制御できます。グラフィック、ドライバーへのフィードバックの細かさ、ペダルの感覚、ドライバーに伝わる振動など、あらゆる面で継続的な進化を遂げています。最新のF1マシンは大型化して重量も増え、一方で敏捷性はやや低下しているかもしれません。しかし、タイヤも大きくなり、機械的なグリップと空力的なグリップが向上し、ダウンフォースもはるかに大きくなりました。2017年仕様の車のハンドルを握れば、ドライバーにはその違いが直ちに分かります」


シミュレーターの設計者やエンジニアの間では、レイテンシーが話題に上ります。レイテンシーとは、シミュレーション上で起こっていることと現実世界のレース状況との時間的なギャップのことです。フェラーリの最新のシミュレーターでは、それが4ミリ秒を下回りました。一方、システムの帯域幅は、いわゆる6つの「自由度(degrees of freedom、DoF)」にわたって55Hzを上回っています。これは、どのくらい正確にメイン画面上の情報が処理され、各動作平面でドライバーとその前庭系に伝達されるかについて説明するための技術的な方法です。レイテンシーが小さいほど、ドライバーはアンダーステアやオーバーステアなどの挙動にすばやく反応できます。




コックピットに乗り込む前に、エンジニアはステアリングホイールの後ろに取り付けられたパドルの使い方と、サーキットの勝負どころでどのギアを使用するかについて説明します




1995年から2015年までフェラーリF1チームの一員だったペトルッチは、若い世代のドライバーは精巧なコンピューター・ゲームにあふれた時代に育ったことで生まれ持った才能が高められているので、シミュレーターの課題にすばやく適応できると考えています。究極的には、シミュレーターは、超現実的であると同時に完全に安全な環境において自信を築き、ラップ・タイム向上のためにエキスパートが支援を提供するものであると言えます。では、ドライバーはどのような改善を期待できるのでしょうか。ペトルッチは再び微笑みます。


「そうですね、あるお客様はバルセロナでラップ・タイムを20秒短縮しました。通常の場合、ラップ・タイムは6~7秒向上すると予想されます。このシミュレーターは本当に極めて効果的なツールで、それに加えてとても楽しいのです」




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