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DINOの長い旅

06 novembre 2020

ヨシュア・ボエット・コーエン

Dino 206 Sのエンジンと俊敏性は、そのドライバーたちに愛されただけでなく、競合モデルにとっての称賛の対象でもありました。波乱万丈の歴史を経て車両は半世紀ぶりに本国へと戻り、知識が豊富なフェラーリ・クラシケの技術者らによってレストアが行われました。


1966年6月5日、ニュルブルクリンク1,000 kmレースが終わりを迎えたときのこと。ジョー・ボニエとフィル・ヒルが駆るシャパラルのマシンに続き、2台のDino(スカルフィオッティ/バンディーニ組のカーナンバー11、およびロドリゲス/ギンサー組のカーナンバー12)が表彰台を獲得しました。シャパラルの米国製V8エンジンはマラネッロのV6に比べて最高出力が200 cvも上回っていたにもかかわらず、7時間におよぶこのレースでは、2位のスクーデリア・フェラーリに対するシャパラルのリードはわずか41.6秒でした。

セレモニーのあと、スクーデリア・フェラーリのチーム・ディレクターであったエウジェニオ・ドラゴーニは、他のチームがいる中で誰もが驚くようなことを口にします。「誰かエンジンの確認をしたい者はいるか?」 彼はこう問いかけると、 「いないならば、私が自分でやる」と続けたのです。 確認の結果、1気筒当たりのボアxストロークが86x57 mmで排気量が331.10 cc、総排気量が1,986.60 ccであることが明らかになりました。計測・計算の結果に間違いはありません。

これはDino 206 Sのレーシング・ヒストリーにおける重要な瞬間となりました。信頼できるパワフルなエンジンを搭載していたことから、1966年から1968年にかけての間、このDinoは競争力の高い強靭なマシンとして認識されることになります。美しさも際立っていました。

今回ここで取り上げる206 S(車台番号026)は、1967年の初めにマラネッロで生産された1台です。

アルミニウム製のボディ・パネルは、ボディショップ『ドロゴ(Drogo)』の職人たちが自分たちの道具で成形したものであるとされています。

026の機構部品はすべてが分解され、それぞれの微調整が完了したのちにジュネーブのスクーデリア・フィリピネッティに送られました。その年の3月、サスペンションの破損により、クラス/ミュラー組は米国でのセブリング12時間においてリタイヤを余儀なくされました。フロリダから戻ると、マシンはエンジンのアップデートが施されたのちにニュルブルクリンクで姿を見せます。しかし、そこではギシェ/ミュラー組が予選で車内の火災に見舞われ、エンジンとコックピットの双方を損傷させてしまう結果となりました。

これを機に、026は、フェラーリの収集家として有名なバルディノンのコレクションに加わります。そして10年以上にわたり、動かない状態のまま保管されたのです。

その後、1980年代の初めにイタリアのコレクターが026を買い取ったことで、車両は本国に戻ります。本国ではレストアが施され、026はビンテージ・カーの各種レースに出場できるようになりました。

1997年から2008年の間、026は拠点を米国に移すと、最終的にはカナダのオンタリオにたどり着きます。

2015年、グッディングがカリフォルニアのペブル・ビーチでオークションを開催すると、車両は230万ドルで落札されて現在のオーナーの手に渡りました。

2019年には完全なレストアを実施すべくフェラーリ・クラシケのワークショップに戻されましたが、今年の夏にその作業は完了しています。

最初に検査をした段階から、車両を細かなレベルまで完全に分解する必要があることは明らかでした。ボディには数か所の問題点があって、そのうちのいくつかは表面がひどく老朽化していたことから、部分的な復元作業を早急に行わなければなりませんでした。

しかし、エンジンとギアボックスの状態は良好でした。エンジンは1気筒当たり2つのバルブを備えたV6のパワーユニットであり、ルーカス・インダイレクト・フューエル・インジェクション・システムを採用しています。したがって、基本的なアーキテクチャー(65度V6)を共有しているものの、Dinoのレース用エンジンは、フェラーリやフィアットのGTモデルに搭載されている同種のエンジンとは一線を画しています。エクストラ・バルブが備わっている以外にも、ツイン・カムシャフトやツイン・スパーク・プラグを採用したことでシリンダー・ヘッドには改良が施されました。それぞれのスパーク・プラグは個別のイグニッション・コイルにつながっていますが、ディストリビューターは1つです。こうしたすべての要素が相まって、エンジンは最高回転数が高まった(9,000 rpm)だけでなく、最高出力も40~50%アップしました。

同じ時代の他のモデルと同様、206のシャシーには水冷式オイル・クーラーが備わっていて、そのチューブ・フレームがエンジンとフロント・ラジエーターを結んでいます。

インテリアは修復されました。

今年の5月、026のエンジンに初めての火入れが行われています。火入れは慎重に行われ、スターターでエンジンの回転数を上げるとともに、損傷のリスクを回避するために電気回路のスイッチが切られました。
このV6エンジンについては出力曲線を調べるため、すでにベンチ・テストが行われています。

今年の夏が終わる頃、026はフィオラーノ・サーキットでの最終的な試運転が完了したのちにオーナーへ引き渡されました。