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新種のスパイダー

50年代および60年代のフェラーリを代表するオープントップグランツーリスモモデルにインスパイアされた新型12Cilindri Spiderは、Daytona Spiderの名で知られる象徴的なデザインの365 GTS4も彷彿とさせます
文:ガビン・グリーン

これは、フェラーリを代表するレイアウトとなっています。長く美しいボンネットの下に収められたフロントミッドシップのV12、座り心地の良い2シーターの快適なキャビン、そして頭上に広がる晴れ渡る青空。その空から降り注ぐ日射しも、その象徴的なエンジンが奏でる壮麗な V12 の音楽も遮られることはありません。

上:1969年のフランクフルトショーで発表された 365 GTS4(現在は Daytona Spider として知られている)は、1960年代の究極のフェラーリスパイダーでした

V12スパイダーは、フェラーリのストーリーの始まりであり、このニューモデルはフェラーリの量産車の長く品格のある歴史の新たな章を刻みます。新型 12Cilindri Spider は、50年代および60年代の最も象徴的な一連のオープントップのフェラーリグランツーリスモモデルのデザインにインスピレーションを受けています。その未来的なデザインには、最先端の卓越したエアロダイナミクスを含むハイテクと伝統が魅力的に融合されています。これには、低空気抵抗モードおよび高ダウンフォースモードに対応したアクティブエアロも含まれます。

自然吸気のV12はフェラーリの定番ですが、12Cilindri SpiderのV12は歴史的なフェラーリよりもはるかに高回転(9500rpmという超高回転)であり、量産型フェラーリV12で最もパワフルなエンジンです。最高出力は驚異の830 cv、最高速度は340 km/hを超えます。最新型の跳ね馬の0~100 km/h加速は2.95秒と圧倒的で、0~200km/hまでわずか8.2秒で到達します。フェラーリのV12スパイダーで、これほど速く、これほどスリリングな走りを実現した量産車はありませんでした。

上、左から:Ferrari 125 S は同ブランド初の車両です。166 MMはフェラーリをレースの舞台に導きました。250 California は高速道路での走行向けに設計されました。275 GTSはより洗練されたドライビング・エクスペリエンスを提供しました

このモデルは、傑出したフェラーリでありながら、その系譜は明らかです。フェラーリが初めて生産した 125 S はV12スパイダーで、フェラーリのレースでの世界的評価を確立した一方、166 MM(ル・マンおよびミッレ・ミリアの両方で優勝)もV12エンジンのオープンカーでした。250 GT Cabrioletと250 California(いずれも1957年発売)は、オープントップV12のフォーマットをより幅広い層に浸透させ、サーキットではなく公道を優先していました。

1964年に発表された275GTSは、275GTBのスパイダーバージョンであり、フォーマットは洗練され、ドライバーへのアピールはさらに高まりました。しかし、60年代の究極のフェラーリスパイダーは、間違いなく最後の1台でした。それは、1969年のフランクフルトショーで発表され、Daytona Spiderとして知られている365 GTS4です。ピニンファリーナの伝説的スタイリスト、レオナルド・フィオラヴァンティ(Daytonaのオリジナルのクーペバージョンも手がけました)の作品であるその時代を超越したデザインは、12Cilindri Spiderにも明らかに影響を与えています。

すべてのフェラーリには、どれほど些細でも、どれほど未来的で先進的な形状であっても、過去からのエッセンスが引き継がれています。Daytonaと同様、12Cilindriでは、サイドパネルはすっきりとしたスタイルで、ボンネットは例を見ないほど長くなめらかで(その下のV12のパワーを強調)、フロントホイールアーチは美しいデザインのノーズにさりげなく溶け込んでいます。12Cilindriのシングルラップアラウンドのフロントバンドは、4つのヘッドランプが特徴的なプレキシガラスバンドで覆われていたDaytonaのフロントエンドを彷彿とさせます(1971年、米国の安全規制によりリトラクタブルヘッドランプに変更)。

上、左から:限定版のフロントエンジンV12スパイダーは365 GTS4に続いてほとんどありませんでしたが、 550 Barchetta Pininfarina、Superamerica、SA Aperta 、812 GTS などの伝説の跳ね馬も含まれていました

12Cilindriと同様、Daytonaもスパイダー性能の水準を大幅に引き上げました。Daytonaは、最高速度280 km/hで、当時(その後も長期間にわたり)最速のスパイダーでした。その4.4リッターエンジンは、フェラーリ史上最大排気量のV12です。最高出力も352 cvと強大で、パワーでも群を抜いています。


Daytonaは、わずか122台しか生産されなかった稀少なモデルで、すぐに人気が(価格も)沸騰しました。価格が高騰すると、一部のDaytonaクーペ(365GTB4としても知られれています)はスパイダーに改造されました。


当時、多くの人々はDaytonaがフロントエンジンのスーパーカー最後の名車であり、365 GTS4がフロントエンジンV12スパイダーの最後の名車であると考えました。その後、スーパーカーはF1の動向に追随し、ミッドリヤエンジンレイアウトに移行していきました。Daytonaの後継モデルであり、Berlinetta Boxerとして知られる1971年の365GT4 BBは、ドライバーの後方にエンジンを搭載していました。また、1984年のTestarossaも同じレイアウトでした。いずれのモデルにも、スパイダーは設定されませんでした。

上:12Cilindri Spider は、フェラーリのオープントップ・グランツーリスモ・モデルの最新進化形です

365 GTS4の次の量産フェラーリスパイダーは、V12ではなくV8でした。ただし、例外的に、2000年の550 Barchetta Pininfarina、2005年のSuperamerica、2010年のSA Aperta、2014年のF60 Americaなど、リミテッドエディションのフロントV12が生産されました。


しかし、Daytona Spiderがその血統の最後を飾ることになると予想した人達の読みは大きく外れることになります。2019年、365 GTS4以来となる量産V12スパイダー、812 GTSが発表されたのです。812 GTSは、Daytonaよりも速く、さらにスリリングなドライビングを提供しました。


そのわずか5年後の今、12Cilindri Spiderが登場しました。このように、フェラーリの象徴であるV12スパイダーは、再び新たな高みに到達したのです。