約20年前、フェラーリは、一部のプロダクションモデルのパフォーマンスを新たな極限へ押し上げた「スペシャル・バージョン」モデルを作り始めました。488 Pista Spiderや812 Competizione Aなど、多くのモデルがマラネッロの伝説に加わっています。同じ頃、フェラーリは「XXプログラム」を始動し、選り抜きの専門的なお客様を対象に、FXX-K EVOなどのステアリングを握って本物のサーキット・テストドライバーになる機会を提供してきましたが、これらは公道走行の承認を得ていないモデルでした。今回初めて、この二つのプログラムがひとつになり、SF90 XX Spiderが誕生しました。プログラムの趣旨を生かした初のスペシャル・バージョンであり、公道走行可能なXXといえるモデルです。SF90 XX Spiderは、ベースとなったSF90 Spiderのリトラクタブル・ハードトップ(RHT)を受け継いでいますが、30 cvの出力アップを果たし、特別に設計されたソフトウェア・ロジックや、固定リアウィングといった斬新な空力ソリューションを採用しています。
表示してある燃料消費量およびCO2排出量の値は、型式認証を受ける時点で適用されていた欧州規則(EC) 715/2007に基づいて算出されたものです。燃料消費量およびCO2排出量の値は、WLTPサイクルでテストした場合のものです。
乗用車を市場で販売するためには、規制適合を検証するための一連の試験を受ける必要があります。
燃費、CO2および公害物質排出が評価されるこの試験は、ラボで特定のドライビング・サイクルに基づいて実施されます。こうすることで、試験は再現可能となり、結果が比較可能になります。これは、消費者が異なる自動車のモデルを比較できるのは、標準化された再現可能な手順に基づいて実施されるラボでの試験のみであるため、重要です。
2017年9月1日に新たな国際調和排ガス・燃費試験(WLTP)が施行され、新欧州ドライビング・サイクル(NEDC)から段階的に移行されます。
NEDC(新欧州ドライビング・サイクル):NEDCは、乗用車および小型商用車の燃費およびCO2排出量を測定するために現在まで使用されてきた欧州ドライビング・サイクルです。最初の欧州ドライビング・サイクルは1970年に導入され、市街地走行と呼ばれました。1992年には、郊外モードが採用され、1997年以降燃費およびCO2排出量の測定に使用されるようになりました。ただし、このサイクルの構成は、現在の異なるタイプの道路でのドライビング・スタイルおよび走行距離と一致しなくなっています。NEDCの平均速度はわずか34 km/hで、加速も緩慢で、最高速度はわずか120 km/hです。
WLTP:WLTPは、新たな国際調和排ガス・燃費試験サイクル(WLTC)を使用して、乗用車および小型商用車の燃費、CO2および公害物質排出量を測定します。この新規制は、消費者に自動車の日常使用状況をより正確に反映した、より現実的なデータを提供することを狙いとしています。
この新たなWLTPは、より鋭い加速を伴う、よりダイナミックなドライビング・プロファイルが特徴です。最高速度は120 km/hから131.3 km/hに引き上げられ、平均速度は46.5 km/hとなり、合計サイクル時間は30分となっています(NEDCは20分)。走行距離は、11 kmから23.25 kmに倍増しています。WLTP試験は、最高速度に応じて、 低速(最高速度56.5 km/h)、中速(最高速度76.6 km/h)、高速(最高速度97.4 km/h)、最高速(最高速度131.3 km/h)の4つの区分で構成されます。これらの区分で、市街地、都市周辺、郊外の道路、および高速道路の各モードをシミュレーションします。この方法は、1台の車両の特性を反映しCO2排出量に影響するエアロダイナミクス、転がり抵抗および車両の質量に影響を与えるすべての車両オプションも対象となります。
WLTPは、段階的にNEDCを置き換えていきます。WLTPは、2017年9月1日以降、新型乗用車モデルに適用され、2018年9月1日以降に登録されるすべての新型乗用車に適用され、すべての欧州連合加盟国で義務付けられます。
2020年末までは、車両の書類にはWLTPおよびNEDC両方の燃費およびCO2排出量の数値が記載されます。実際に、2020年末まで、EUで登録される自動車の平均CO2排出量を評価するために、NEDCの値が使用されます。また、国によっては財政上の目的のために、継続してNEDCのデータを使用します。しかし、2021年以降、すべての自動車の燃費 / CO2排出量の数値として使用されるのは、WLTPのデータのみとなります。中古車はこの移行には影響されず、認証を受けたNEDC値を使用します。
乗用車の走行燃費と排出ガス
この新たなWLTP試験は、NEDC試験よりも現在の走行状態に近くなっていますが、ドライバー個人のドライビング・スタイルの影響など、すべてのケースを考慮することは不可能です。
よって、ラボで測定した燃費とCO2排出量の値と、実際に車両を使用した場合の値に差があります。この差は、オンボード・システム(エアコンなど)の使用、交通状況、地域固有の気候条件、およびドライバー個人などの条件によって異なります。
この理由から、車両および異なるモデルを公平に比較できる数値を得られるのは、標準化されたラボでの試験のみです。
お客様にとって変わること
この新たなWLTPは、より現実的なドライビング行動を反映し、個別のモデルおよびバージョンとオプション装備を含む個々の技術的特性を考慮するため、異なる車両モデルの燃費とCO2排出量を比較するためのより現実的な基準を提供します。
SF90 XX Spiderは、フェラーリのどのロードカーよりも効率性の高い空力パフォーマンスを誇り、これに迫るのはスーパーカーのLaFerrariのみです。発生ダウンフォースはSF90 Spiderの最大値から倍増し、グリップが向上して、フィオラノのラップタイムが明らかに短縮されました。これは、マラネッロが誇る無数のレース経験の賜物であり、発熱コンポーネントや電子機器、エンジン・コンパートメントのための冷却フロー・マネージメントを再設計した結果です。
SF90 XX Spiderの最も特徴的な要素は、間違いなくリアの固定ウィングでしょう。サーキット仕様のXXに装着して、徹底的な研究、テスト、開発を行いました。空力上、計り知れないポテンシャルを持つエレメントであり、フェラーリ・スタイリング・センターとの密接な協力によって、車両のフォルムと完璧に融合しています。その形状は効率性を最優先に決められ、ウィングの作り出す圧力場が、シャットオフ・ガーニー周辺で生まれる正圧・負圧の複雑なシステムと相互作用を生むように磨き上げられています。
シャットオフ・ガーニーも再設計されました。配置は2種類あります。LD(ロー・ドラッグ)では、可動エレメントが持ち上がり、空気抵抗を最小限に抑えます。対してHD(ハイ・ダウンフォース)では、可動エレメントが下がり、固定エリアを露出させます。こうして生まれた過圧エリアが、流れ込む気流を縦方向にそらし、車速250 km/hで530 kgという最大ダウンフォースを生み出します。
SF90 XX Spiderは、SF90 Spiderの特徴であるPHEVレイアウトを受け継いでいます。V8内燃エンジンと3基の電気モーターを組み合わせ、2基のモーターはフロント・アクスルに左右独立して搭載し、1基のモーターはリアのエンジンとギアボックスの間に配置されています。この構成によって、最高出力は1030 cvに達し(SF90 Spiderから30 cv増加)、フェラーリ全体の新たなパフォーマンス・ベンチマークを打ち立てました。
強大な最高出力797 cvを誇るミッドリアシップのV8ターボエンジンが、このアーキテクチャーのパフォーマンス限界をさらに押し上げました。SF90 Spiderのパワーユニットに開発を施し、さらに極限まで高めています。吸排気ダクトはポリッシュし、燃焼室とピストンにも特殊な機械加工を施すことで、平均圧縮比の引き上げに成功しました。また、二次空気導入装置の排除によって、エンジン重量を3.5 kg削減しました。
SF90 XX Spiderではエンジン・サウンドも再設計され、レースの魂が前面に押し出されています。いっそう朗々とした豊かなサウンドを生み出し、V8の全回転域で美しいハーモニーを奏でるよう、ホットチューブ・システムも最適化されました。これが内燃エンジンの脈動をキャビンに伝達し、高周波音を強調して、究極の進化を遂げたフェラーリV8の最も壮大な姿を露わにします。
SF90 StradaleとSpiderで初めて登場した8速デュアルクラッチ・ギアボックスは、SF90 XX Spiderにも搭載されています。ただし、変速ロジックは大きく変わりました。Ferrari Daytona SP3で導入されたロジックを採用し、変速時のサウンドを増幅して、ドライビングの興奮を高めます。ハイパフォーマンス・ドライビングでは、中・高回転域でアクセルを戻した際にエグゾーストで鳴るあの破裂音に似た音を発生させるのです。このために、ギアボックスの制御ロジックと相乗効果を発揮する特殊なエンジン・キャリブレーションが新たに開発されました。
SF90 XX Spiderのデザインで最も特徴的な要素は、間違いなくリアウィングでしょう。特にテールのフォルムは空力を念頭に再デザインが施され、いっそう流麗になり、レーシングカーに典型的なロングテールのシルエットとなりました。インタークーラー用エア・インテークも拡大され、さらに効率的に空気をラジエーターへ送り込みます。
矢の形をしたフロント・ウィングというコンセプトは受け継いでいますが、SF90 XX Spiderではこの部分に、縦型のウィング形状を生かしてヘッドライトが組み込まれました。これがいっそう幾何学的な印象を作り出し、新モデルの精神を見事に象徴しています。もうひとつ特徴的なのが左右のエア・インテークを占める力強いウィング形状です。宙に浮いて見える効果によって、車幅が広がって見え、アスファルトに低く吸い付いたような印象が強まっています。
SF90 XX Spiderで、フェラーリ・スタイリング・センターは、リアに加えられた変更を利用して、ひと目でそれと分かるアーキテクチャーを生み出しました。大変人気のあるフェラーリの伝統、リアのフライング・バットレスと、フロントの矢のテーマとをシームレスに調和させたのです。その結果、ボディが前方に伸びて見える視覚効果が生まれ、SF90 XX Stradaleとはまったく異なる印象となりました。車両の重心が下がって見え、特にサイドビューで顕著です。これはルーフ部分の効果だけではありません。ウィンド・スクリーンがラップアラウンド形状で、サイド・ウィンドウとシームレスに溶け込み、フライング・バットレスがSF90 XX Stradaleより低いためでもあります。ロールバー同様、ルーフもカーボン・ファイバー製です。フェラーリの名高いリトラクタブル・ハードトップ(RHT)メカニズムによって、車速45 km/hまでは走行中でもわずか14秒で開閉でき、あらゆる天候で車両を存分に楽しんでいただけます。
SF90 XX Spiderのインテリア・デザインの指針は、レースというコックピットの使命を強調することでした。そこで、大きな軽量化をもたらす部分に絞って開発を行いました。主にはドアパネル、センタートンネル、フロアマットで、形状と素材をよりシンプルにし、高機能ファブリックを多用しつつ、機能的な部分にはカーボン・ファイバーを使用しています。
特殊なレーシングシートは、カーボン・ファイバー製のチューブラー構造とフォーム構造がはっきり目に見えます。快適性を犠牲にすることなく、スポーツ走行の楽しさを強化するよう、SF90 XX Spiderのため特別に設計されました。バックレストの回転メカニズムは、伸縮性のあるトリム素材を使ってシートに組み込んで、動きを隠しています。つまり、一体型シートのように常にシームレスな外観ですが、バックレストの調整も可能なのです。これによって、SF90 Spiderの一体型シートに比べ、重量を1.3 kg削減できました。
SF90 XX Spiderの開発の重点は、フェラーリ史上最も高いパフォーマンスを持つロードカーを作り上げ、ステアリングを握る楽しさを極めると同時に、SF90 Stradaleのハイブリッド・パワートレインが誇るあらゆる機能を維持することでした。また、パフォーマンスの引き出しやすさも大きな柱でした。特に電動モードで、市街地走行から郊外への旅行に至るまで、驚くほど高いパフォーマンス・ドライビングを可能とすることを重視しました。e-Driveモードの最高速度は135 km/hに達します。
主な新機能のひとつに、296 GTBでデビューしたABS EVOコントローラーがあります。ESCセンサーとの統合によって、パフォーマンスが向上し、ドライ路面におけるハイパフォーマンス・ブレーキングの再現性も高まりました。このシステムは、制動操作の再現性を目標値まで最大化し、コンポーネントの公差や路面状況の自然な変動によるロスを低減します。その結果、SF90 XX Spiderではさらにブレーキングを遅らせることが可能となり、その再現性も高まるため、サーキットでの操作性が向上しています。
SF90 XX Spiderではエクストラ・ブーストの制御ロジックがデビューし、一定時間に限って超過パフォーマンスを保証します。このソフトウェアの任務はラップタイムの短縮で、eマネッティーノのQualifyingモードでのみ稼働し、供給可能な出力限界をコーナー出口で引き上げます。約2秒間というこの短いパワーブーストによって、フィオラノのラップタイムで0.25秒の短縮が可能です。