1976年、パリで開催されたモーターショーでデビューした512BB には、5 リットル仕様の12気筒ボクサーエンジンが搭載されていました。低回転域から素晴らしいトルクと出力を発生し、先代 365 GT4/BB よりも加速が格段に滑らかになったこの新型エンジンは、大成功を収めました。ピニンファリーナ・デザインのボディは、先代モデルの一部ディテールを変更し、フォルムが一層優雅になったばかりでなく、エンジン冷却性能も向上しています。
365 GT4/BB の後継車として、1976年のパリ・サロンで発表された512BBは、燃料供給方式をキャブレターから燃料噴射に変更された 512 BBi が登場する1981年まで生産されました。総生産台数は、 929 台(シャシー・ナンバー19677- 38487)です。
新型モデルのネーミングは、先代モデルまでの1気筒あたりの排気量を表す数字という標準的なフェラーリの命名法に沿った場合、数値が低くなるため、ディーノ・シリーズで始まり、主にサーキット専用車輌で使われていた総排気量+気筒数を採用しました。つまり、5 リットル12気筒エンジンを意味します。また、数字の後に付くモデル・タイトルの「BB」は、先代同様に水平対向(Vアングル180°)レイアウト、通称ボクサー・エンジン搭載のベルリネッタ(クーペ)、「Berlinetta Boxer」の頭文字です。先代モデルとの最大の相違点は、エンジン排気量の拡大です。一方、基本構造、フォルム、車輌の特徴などは、先代モデルを踏襲しており、外観上の違いはわずかなものでした。
512 BB と 365 GT4/BB の主な外観上の違いは、ノーズおよびリア周辺です。512 BB のフロント・ロア・パネルには、一体化したチンスポイラーが備わります。また、リアの構成は、3連テールランプ、2組の3連エグゾースト・パイプから大型2連円形レンズおよび 2組のツイン・エグゾースト・パイプに変更されました。2連テールランプは、オリジナル・プロトタイプ車輌に装備され、1971年のトリノサロンで公開されました。リア・エンドのパネルは、365 GT4/BB のメッシュ仕上げからサテンブラック塗装の水平ルーバー・パネルに置き換えられ、エンジン・フードのルーバー配置も変更されました。ボディー側面の変化としては、リア・アクスルが1,520mm から 1,563mmに広げられたほか、リア・ホイールアーチ前方にエグゾースト・システム冷却用の NACA ダクトが装備されました。
このボディーは、ホイールベース 2,500mm のファクトリー・レファレンスナンバー F 102 BB 100 シャシーに架装され、全ての車輌にロードカー用として割り振られた奇数のシャシー・ナンバーが付けられています。シャシー構造は、365 GT4/BB と同じ、モノコック・センターセルを備えた鋼管シャシーフレームです。また、365 GT4/BB がそうであったように、左および右ハンドル仕様が用意されましたが、米国仕様車は一度も製造されませんでした。
標準仕様のホイールは、ノックオフ・スピンナーによるセンターロックナット方式の合金製「星形」5スポークですが、いくつかの市場の法的要求から、スピンナーの代わりに大型八角形のロックナットを装備した仕様も存在します。このホイール内側には、2系統の油圧回路を備えたサーボ・アシスタンスのブレーキキャリパーと大径ベンチレーテッド・ディスクが備わります。
サスペンションは、四輪独立懸架で、前後アンチロールバーを備えたダンパーユニット(リアはツイン・ダンパー)のコイルスプリングとショックアブソーバーがウィッシュボーンを介してオールマイティーな走りを提供します。
365 GT4/BB と同じ構成の フラット12気筒(180°V)エンジンは、排気量を 4,943cc に拡大し 、ボア×ストローク 82mm x 78mm とした、ファクトリー・レファレンスタイプ・ナンバー F 102 B 000 です。しかし、特徴的なバンクごとにベルトで駆動するダブルオーバーヘッド・カムシャフト、エンジンとトランスミッションのレイアウおよび駆動方式、ドライサンプの潤滑方式と油圧クラッチの組み合わせなどは365 GT4/BB を踏襲しています。
4基のウェバー製 トリプルチョーク 40 IF 3C キャブレター、左後部のインレットカムシャフトで駆動する1個のディストリビューターと電子イグニッション・システムの組み合わせで340 cv の出力を絞り出します。前作 365 GT4/BB の出力は、これより勝っていますが、排気量を拡大した同モデルでは、最大トルク を向上させ、ドライバビリティが改善されました。
ベルリネッタ・ボクサーは、すでに70年代後半から80年代半ばに、米国の営業権者、ルイジ・キネッティ氏などによってレース・キャリアをスタートさせていました。主にル・マン24時間レースのGTカテゴリーに軽くモディファイしたロードカーでレース活動を展開していたキネッティ氏でしたが、その後ピニンファリーナのウィンド・トンネルで開発したスペシャル・ボディを換装した本格的なレーシングバージョンの製造をファクトリーに要請し、これを実現させました。そのモデルが、当時モデナにあったフェラーリのアシステンツァ・クリエンティが手がけた512 BB LM です。