212インテルの後継車、250 エウローパ。スケールメリットを活かすために375アメリカとシャシーを共用していましたが、ランプレディのV型12気筒の排気量は3リッター以下に抑えられました。
生産1号車は、340メキシコのラインを模したヴィニャーレによるボディを架装しています。その後、ピニン・ファリーナが生産を引き継ぎ、ここでは2シーターのカブリオレも作られています。一回り大きな375アメリカからスタイルの影響を受けたことは明らかですが、375アメリカはサイズに相応しいより排気量の大きなエンジンを搭載していたとされます。
250エウローパGTは250エウローパの直接の後継車で、1954年のパリ・サロンで一般公開されています。当初のモデル名は250エウローパでしたが、その後まもなく先代モデルとの区分けをはっきりするために、GTのイニシャルがモデル名の末尾に付け加えられました。さらに、その後は単に250GT と呼ぶことで差別化を図っています。
同シリーズの大半は、これに先立って登場した250エウローパ・ピニン・ファリーナと事実上同一のスタイルをした3ウィンドウクーペ。実際、寸法に関する慧眼の持ち主でない限り、巻き尺を当てるしか2モデルを区別する術はありません。もっとも大きな違いはフロントホイールアーチとAピラー間の距離なのですから。
ひとつのモデルのライフスパンにわたってデザインを完全に統一する時代が到来するのはまだ先のことでした。250エウローパGTの1台はベルギーのレティ公爵夫人のためにヴィニャーレが特別に製作したボディを載せています。アルミを素材にしたピニン・ファリーナのベルリネッタボディが7台ありますが、やはりデザインは様々でした。ちなみにこの7台はまもなく登場することになる“TdF(トゥール・ド・フランス)”のプロトタイプだと考える自動車歴史家も数多く存在しています。トゥール・ド・フランスは1956年から1959年にかけて生産されたベルリネッタ。標準型のクーペでさえ個々の顧客のリクエストに応えてボディの細部に改造が施されています。また、ボディの素材にしてもスチールであったり、アルミであったり、多様性に富んでいます。250エウローパ同様、リアシートを備えるクルマも存在しますが、実際の広さは内装が綺麗に施されたラゲッジスペースのようなものでした。
250 エウローパと250 エウローパGTとの最大にしてもっとも重要な違いは、ボンネットの下にありました。250 エウローパに搭載されていた“ロングブロック” ランプレーディ・エンジンをコロンボのショートブロックV12(250MMなどに使われていた)に換装することで、キャビンスペースを犠牲にすることなく、ホイールベースを200mm短い2600mmにすることができたのです。同時に前後トレッドも29mm広げられています。社内コードナンバー「ティーポ508」のシャシーにはロードカー用の奇数のシャシーナンバーが打刻され、GTの文字が数字の最後に付きます。縦方向に走るメインチューブ2本と、これを繋ぐクロスメンバーから成り立ち、アウトリガーがボディを支えました。250エウローパや375アメリカでは、2本のメインチューブはリアアクスルの下を通過するアンダースラングだったのに対し、250エウローパGTではオーバースラングに改良されています。
サスペンションはフロントがダブルウィッシュボーンによる独立で、レバータイプの油圧ダンパーと、初期型では横置きリーフスプリングが、後期型では左右に配されたコイルスプリングが組み合わされました。リジッドのリアアクスルを支えるのは半楕円リーフスプリングで、これにレバータイプの油圧ダンパーが組み合わされています。ブレーキは4輪油圧作動のドラムで、ケーブル作動のパーキングブレーキは後輪に作動します。1台を除いて、すべて左ハンドルで製作されました。
前述のように、エンジンは3リッターのV12という共通点を除けば、250 エウローパとはまったく別物の、コロンボが設計したショートブロックV型12気筒の発展型です。73mm x 58.8mmのボア・ストロークから2953ccの排気量を得て、公表値220bhpを発生しました。ツインチョークのウェバー36もしくは42 DCZキャブレターを3基ずらりと並べ、点火は2基のコイルにより、ディストリビューターはフロントに水平に置かれています。
V型12気筒は4速オールシンクロメッシュのギアボックスと組み合わされ、プロペラシャフトを介してリジッドリアアクスルに駆動力を伝えます。なお、最終減速比はいくつかの選択肢が用意されていました。
ランプレーディの“ロングブロック”はシリンダーヘッドにねじ込むシリンダーライナーを特徴としており、そのため大きなボアピッチを必要としました。いっぽう、コロンボの設計はコンベンショナルな圧入式シリンダーライナーとヘッドガスケットを採用しており、コンパクトに仕上がったのです。
250エウローパGTはフェラーリの生産モデルのストーリーにおいて重要なマイルストーンになっています。これまでのモデルのなかでも、比較的均一なデザインを保ちつつもっとも長く生産されたモデルであり、今日にいたるまで、1台の例外を除いて、ピニン・ファリーナが生産型フェラーリの唯一のデザイナーであることを決定づけためたモデルでもありました。そして、このモデルで始まったエンジンとシャシーのコンビネーションは、幾多の改良を受けつつその後10年にわたり、様々な250GTの形で生産型フェラーリのバックボーンを形成することになるのです。