458スパイダーは、ミッド・リアエンジン車輌として初めてリトラクタブル式ハードトップを採用した結果、クローズド状態のキャビンはかつてないほどの快適性を提供するとともに、他に類をみないスパイダーとしてのパフォーマンスをも備えています。
リトラクタブル・ハードトップの第一のアドバンテージは、天候およびノイズから乗員を守り、クローズ時の車内快適性を著しく向上させたことです。
高速域において生成されるプレッシャー・フィールドによって、「458スパイダー」独特のハード・トップは変形することがありません。キャビンのスペースと快適性は、ダブル・カーヴァチュア(2つの膨らみ)・ルーフによってさらに向上しました。このダブル・カーヴァチュアは、素材をアルミニウムとしたことで初めて実現したもので、伝統的なカンバス・トップでは不可能でした。
リトラクタブル・ハードトップは超軽量で、構造もシンプルにして独創的なメカニズムを備えています。その重量は、これまでの一般的なハード・トップよりも40kg、ファブリック・トップよりも25kg軽くなりました。
シンプルな構造によって、スピーディかつ優雅な作動が可能となりました。また、極めてコンパクトであり、空気力学的効果にも優れています。「458スパイダー」の2分割構成のルーフは、各セクションが同時に回転し、ハード・トップの開閉に要する時間はわずか14秒です。
ハード・トップは、エンジン隔壁前方に設けた100リッターのスペースに美しく収納されます。ほとんどのリトラクタブル・ハードトップ車輌が150~200リッターのスペースを必要とすることを考慮すると、見事なまでに容量を削減したと言えるでしょう。かつてないほどコンパクトな収納スペースによって、リアのスタイリングおよびエンジンのミッド・リア・ポジションにおける卓越した空気力学的性能を実現させました。オープントップ・ドライビングは、極上の爽快感をもたらします。しかしトップ・ダウン時に発生する不快な風の巻き込みを防ぎ、乗員にその極上の爽快感を十分堪能していただくためには、コクピット内のエア・フローを最適化しなければなりません。
これにフェラーリは、エレクトリック・ウインド・ストップを「458スパイダー」に装備することで対応しました。ハード・トップが完全に開くと、これに連動して最大高の1/3の高さまで自動的に上昇します。この理想的なポジションは実物大のスケール・モデルを用いたウィンド・トンネル実験によって決定しました。
このポジションは、ドライバーによって上下に微調整することができます。乗員が、車輌のサウンド・トラックを最大限に愉しみたいという場合には、クーペ状態であっても完全に下げることができます。
このデザインは、ウェストラインから始まるルーフ基部のカットラインをBピラー・トップまで移動させたことによる結果です。
これによってルーフ・シェイプをシンプル化するとともに、2次元形状にすることで、収納時に2分割されたルーフを重ねて収納することができました。
スパイダーとクーペとの主な違いは、エア・インテーク・ポジションです。「458イタリア」ではBピラー部分にレイアウトされていますが、スパイダーはギアボックスおよびクラッチ・ラジエターのあるリア・スポイラー部分まで後退しています。
この新しいエア・インテーク・ポジションにより、オープン・トップ状態であっても、ドライバーは「458スパイダー」の自然吸気フェラーリV8のドライビング・プレジャーをクーペ同様に堪能できるように吸気管の形状を変更しました。オープンエアの状態でインテークおよびエグゾースト、それぞれのサウンドが最適なバランスで調和するようにデザインされています。特別設計のサイレンサー効果によって3~5dBの音域を補正し、3,000rpmから 5,000rpmにおけるインテークとエキゾーストの入力が同等となるよう調整されています。
このようなハーモニクス・アプローチにより、オープン・トップ状態であっても、ドライバーおよびパッセンジャーの耳に極めて官能的なサウンドをお届けすることができるのです。また、ウインド・ストップを少し下げることで、さらに素晴らしいサウンドを愉しんでいただけます。
優れたパフォーマンスを備えているにもかかわらず、「458スパイダー」は燃料消費と排出ガスの面においても極めて効率的(275G CO2/KM)なモデルとなりました。
これは、一連の改良により可能になったもので、主要なコンポーネントを統合するHELE (ハイ・エモーション & ロー・エミッション)システムの導入も含まれています。主要なコンポーネントとは、市街地走行において、燃料消費量を10%削減するアイドリング・ストップ機能、低圧燃料ポンプ、パルス幅モジュレーション・コントロール機能付ブラシレス・ファン(ブラシは永久磁石に代替され、これによりフリクションが完全にゼロとなった)により約6%燃料消費を削減、電子可変容量エアコンディショニング・コンプレッサーなどです。
現在では広く知られている7速+リバースのF1デュアル・クラッチ・ギヤボックスは、性能と快適性を向上させるメカニズムです。ギア・シフトの際、クラッチを切るタイミングと繋がるタイミングをオーバーラップさせることで、ギア・シフト時間を事実上ゼロとしました。その結果、トルク変動なしに、オートマチック・トランスミッションのような滑らかなギア・シフトが可能となり、このシステムはスポーツ性、パフォーマンス、快適性における新たな指標となりました。
また、ファイナル・ギヤ・レシオおよび1速&7速ギアは細心の注意が払われ設計され、「458スパイダー」のスポーティーなキャラクターを際立たせています。これにより、いかなる回転域からでも十分なトルクを発生させ、7速ギアで最高速度に達成します。
第2世代となるアルミニウム製シャシーは、アルミニウム・ファブリケーションにおける第一人者であり、フェラーリ社内のみならず、世界中の大学や研究機関と技術提携しているモデナの「スカリエッティ・センター」にて製造されています。
「458スパイダー」のシャシーには、様々な種類のアルミニウム合金が導入され、それぞれが特別な機能を有しています2種類の合金:薄い鋳造成型品(第1世代よりも30%薄い)。5種類の高強度合金:射出成型品(強度は第1世代モデルの合金よりも80%高い)。3種類の合金:薄型パネル(薄さ-25%)。複数の特殊合金:卓越した衝撃吸収力を持つ。フロントおよびリアのクラッシュ・ボックスに使用。これらのハイテク素材以外に、フェラーリは先進的な成型技術をも採用しました(厚さ1mm未満の複雑な形状を立体化する「スーパー・プラスティック」成型も含まれます)。
さらに、軽量化および構造面における高い剛性を実現させるために様々な接合技術が採用されています。パフォーマンスおよび安全性の向上を目的に、「458スパイダー」のコンポーネントは、その数を最小化するために細心の注意が払われました(特にドア構造)。
より剛性の高いシルには新しいアプローチを採用するとともに、ねじれ剛性およびビーム剛性(いずれもフェラーリ430比+23%)向上のためにバットレス構造を導入しました。この新バットレス構造は、これまでのスパイダー・モデルに存在した2本のロールバーに代わるロールオーバー・プロテクションとしても機能します。この結果、卓越した安全性を確保し、ロールーオーバーに関して最も厳しい安全基準にも適合しています。
「458スパイダー」のエアロダイナミクスは、「F430スパイダー」よりも12%も向上しています。ノーズには空気圧によって変形する2個のウィングレットを備えています。これはフロント・エリアでダウンフォースを発生させるとともに、スピードの上昇に伴い変形することで、ラジエター・インレットの面積を小さくしてドラッグを減少させます。
また、アンダーボディのスポイラーからセットバックした位置には2個のサイド・ディフューザーを装備しています。クーペ・モデルと同様に、曲面構成で仕上げられたリア・ホイールアーチのトレーリング・エッジは、効果的なブレーキ・クーリングを確かなものとするためのものです。スパイダーの特徴的な新機軸は、ルーフの2つの膨らみのジオメトリー、バットレス、リア・ノルダー、エンジン・カバー上のインテーク・グリルです。
前後方向に伸びるルーフの膨らみにより、気流はルーフ後端で再び素早く収束し、ダウンフォースを向上させるとともに「458スパイダー」のリア・エリア全体の効率を高めています。これはスパイダー車輌としては非常に厳しい要素ですが、結果として「458スパイダー」の空気力学的効果は「458イタリア」と同程度に仕上げることに成功しています。
ルーフの前後方向の膨らみは、バットレスの特徴的なデザインとの相乗効果によって、気流が車体から剥離するのを抑制します。これにより、空気はエンジンのリア・エア・インテーク、クラッチとギアボックスのオイル・ラジエターへと効率的に流れます。また、リア・スポイラーも、エンジンおよびラジエターの空気流入における空気力学的効果に大きく貢献しています。さらに、エンジン・カバー・グリルは、ルーフおよびバットレスからの気流を吸い込む機能を備えており、エンジン・ルームの冷却に貢献しています。
「458スパイダー」のサスペンションは、フロントにLアームを備えたダブル・ウィッシュボーン式を採用、リアはマルチリンク式です。このレイアウトによって、バンプ吸収能力が向上し、上下方向の柔軟性が高まりました。
さらには、コクピットのノイズ・レベル低減、横方向の剛性強化およびハンドリング性能の向上にも貢献しています。このような特徴とあわせて、専用に開発されたタイヤによって、全体としての垂直方向剛性が増大し、ロール量を低く抑えました(F430比+35%)。
また、よりダイレクトなステアリング・レシオが可能となり(F430比-30%の11.9°:F430は16.9°)、ステアリングへのインプット量はより軽減されました。
E-DIFF および F1-Trac コントロールのソフトウェアは、1基のボッシュ製ESP ECU内に収めることで、相互の情報伝達時間の短縮化を図りました。また、進化したコントロール・ロジックにより、パフォーマンスはさらに向上しています。
E-DIFF3: 新パワーONストラテジー
E-DIFF3 / F1 Tracの統合:さらなる進化
ハイパフォーマンス ABS:新ストラテジー(ハイ・グリップ特性) E-DIFFと統合
現在のE-DIFF3は、よりシームレスにF1-Tracと統合され、F1-Tracがオンのポジション(Sport-Race)でも、オフのポジション(CT-オフ ESC-オフ)でも、グリップ予知を含むF1-Tracの一連のパラメーターを読み込んでいます。この進化により、コーナーの立ち上がりにおける(Sport、Race、CT-オフ、ESC-オフ)トルク配分は、前モデルよりも向上しました。これはトラクションの増大に貢献するとともに、前後方向の加速度増大および限界域での挙動向上に繋がっています。また、「458スパイダー」は、制動距離においても極めて秀でています(100-0 km/h制動距離 32.8m、 200-0 km/h 制動距離128.5m)。
この優れた数値は、ボッシュとの共同で開発したコントロール・ロジックとコントロール・システムの最適化および、作動時間を最短にするフェラーリ・プリフィル・ロジック、中・高グリップ状態におけるABSの最適化、ABS作動状態における車速の正確な検知を可能にするE-DIFF3および ABSコントロール・ロジックの統合、といった技術によって実現しました。E-DIFF3および ABSコントロール・ロジックの統合により、ブレーキング・トルクのコントロールおよびスタビリティも向上しています。 また、「458スパイダー」のタイヤは、優れたブレーキ・システムに最適なグリップ性能に焦点をあて、開発されました。
SCM(磁性流体式サスペンション・システム)は、2006年、「599」 に初めて採用され、「458スパイダー」ではSCM2バージョンへと進化を遂げました。ビスカス・フルードを使用し、このフルードがダンパー内部に発生した電子制御磁界と瞬時に反応します。
この時、コントロール・ソフトウェアは、磁界密度を1/100秒単位で調整します。ECU (インプット・タイム50%短縮)およびダンパーは第1世代SCMよりも確実に進化しています。
2008年1月より、フェラーリ全モデルにカーボン・セラミック素材のブレーキが標準装備されました。優れたブレーキングを確かなものとするとともに、カーボン・セラミック素材のディスクはメンテナンスの手間も最小となる利点があります。
ハードトップを二分割して折りたたみ、エンジン前方のコンパートメントに収納されるという画期的なシステムの採用により、非常にコンパクトな収納を実現しました。
リトラクタブル・ハードトップを導入することによる制約が、車輌パッケージのレイアウトとエアロダイナミクスという問題をスマートに解決するためのヒントとなったのです。ボンネットとフランクについてはまったくモディファイは必要とされませんでした。しかし、リアは完全にリデザインされています。
二分割されたハードトップの収納スペース容量が少なくなったことでリアデッキ・ラインを持ち上げる必要はなくなりました。2枚のルーフパネルはそれぞれ後ろ向きに180度回転し、1枚がもう1枚の上に重なることで容量を最小限に抑えているのです。この結果、デザイナーはシート後方にゴルフバッグを収納するに十分なストレージエリアを設けることが可能となりました。
クーペをスパイダーに造り直す際、空気力学的にもっとも重要な問題は、気流をスムーズにリアスポイラーに導き、ダウンフォースを得るためのリアウインドウが存在しないことです。
この問題にフェラーリ・スタイリングセンターとピニンファリーは、伝統的なマラネッロのスタイリング・コンセプトを踏襲したバットレスと、エンジンカバーの2点に集中して開発作業を推し進めました。スパイダー・ボディで発生する乱流を抑えるために、これらのフォルムは徹底的な見直しが図られました。
特にバットレスは、スパイダー・ボディに必要な様々な機能を満たす構造となっています。まず第一に、そして何よりもロールバーとして機能します。430と異なり、バットレスの一部に乗員保護と構造強化という要素が組み込まれました。
また、空気力学的な面では後方に向かい細く収束するバットレスのフォルムによってエンジンカバー上面の気流を効果的にリア・ラジエーターに導きます。
リアのエアインテイク開口部分はクーペよりも大型化され、オイル・ラジエーターの冷却という本来の目的以外に、エンジン・インテイクとしても機能します。よりボリュームを増したインテイクサイズによって取り込まれる空気の流速は低くなり、ノルダー効果も増加します。流速が低下することでより多くの空気を取り込むことができるのです。
エンジンカバーには6つのエアベントがありますが、その形状と数は伝統的なフェラーリ・スタイリングの流れをアレンジしたものです。2つのバットレスの間には、電動式のガラスウインドウを装備し、過去のミッドシップ・フェラーリのスタイリング・イメージにあわせると同時に、既に説明したとおり、効果的なウインドストッパーとして機能します。
F430スパイダーからの大きな進化としては「エンジンが外から見えない」という点が挙げられます。これは機能優先のデザインを採用したためで、視覚的にエンジンをアピールすることよりも、フォルムを磨き上げることが優先されたからです。そうでなかったとしても視覚的に完璧にエンジンの存在をアピールすることは難しいでしょう。それに加えて、エンジンフード・ガラスを排除し、リトラクタブル式のアルミニウム・ハードトップを採用したことで重量低減という大きなアドバンテージを得られているのです。
フェラーリ・スタイリングセンターは、空間の活用と人間工学に細心の注意を払うとともに仕上げとトリムにもこだわって、このクラスの車輌にふさわしいものに仕立て上げています。
458イタリアと同様に、458スパイダーもまた、ドライバーが車輌の中央でステアリングを握る感覚を重視しています。このフォーミュラ1コクピット・スタイルのドライバーレイアウトは、特にドライビング中のドライバーの手の動きを最小限に抑えることで、常時周囲の状況にドライバーが集中できるような設計となっています。
ふたつの曲面を描くルーフとシートもまた人間工学に基づいて設計されており、6フィート4インチ(約193cm)を超える長身の方でも簡単に、そしてもちろん快適にご乗車いただけます。458イタリアの姉妹車輌であることを誇るスパイダーですが、クーペと比較すると、わずかですが究極性能よりも、日常でのドライビングや友人/パートナーと楽しむ週末のドライブをより愉しんでいただける仕上がりとなっています。内装はシンプルで、フロント・トランクとリア・ベンチには十分な収納スペースが設けられています。どちらのスペースにもエンジンカバーの6つのエアベントをモチーフしたスタイリッシュなデザインのスパイダー専用ラゲッジ・セットが用意されています。
フロント・トランク容量は58リットルで、オプション設定された3つのスーツケースの上に収めることが可能なスーツバッグもご用意しております。
リア・ベンチにはレギュラーサイズのゴルフバッグの収納も可能で、長いクラブにも対応しています。こういった458スパイダーの十分な空間はクロスビームのデザイン見直しによりもたらされたものです。クロスビームはシャシーのねじれ剛性を決めるだけでなく、転倒時のコクピット保護として機能する2つの構造強化体を支えています。
この保護構造は、ユニークなデザインのBピラーバットレスとして綿密に458スパイダーのスタイリングの一部に組み込まれています。フェラーリが仕立てたスーツケースはシート後方のスペースに完璧にフィットします。
一般的なインジケーター類を排除し、制御装置をステアリングホイール上にまとめて配置することで、458スパイダーがレースの世界から発生したモデルであることを強調します。ドライバーがステアリングのグリップを緩めることなく、すべての制御動作ができるということは、ドライビング状況に関わらず、車輌の最大のパフォーマンスを引き出すことに繋がります。
これこそが、フェラーリが求めるヒューマン・マシン・インターフェスで、ドライバーは走行中、車輌のコントロールに集中することができます。
比類なくスポーティーでありながら安全なドライビングを保証するために、458スパイダーにはVDA(ビークル・ダイナミック・アシスタンス)が装備されています。これによりドライバーは、いつでも車輌の状態と達成できるパフォーマンス・レベルを的確に捉えることができるのです。
マネッティーノをRACEモードにしてCTオフ、ESCオフに設定した場合には、VDAはよりスポーツドライビングを重視したセッティングになりますが、同時にどのような瞬間でも車輌にもっとも適した状態をドライバーに伝達することで、安全性を確保します。これはいくつかのパラメーター(横G、縦G、エンジン回転数、車輌速度)をベースに、車輌状態(ブレーキ、エンジンとタイヤ温度)を把握するアルゴリズムによって、車輌にとって最も適した状態をドライバーに伝えるというものです。